(2022.09.02更新)
代表長谷亜希ノート
#5 私たちが目指す保育とは。12年の実践知から保育者も事務局も経営者も、みんなでつくる
前回の記事では、「げんきっ子保育をみんなでつくろうプロジェクト」がスタートしたことを紹介しました。また、そのプロジェクトが「元気な子どもの遊びを共有し学びあう場」から「げんきっ子が目指すものはなにか、ノーベルの保育の根幹を言語化する場」へと変化するさまをお伝えしました。
子育てと仕事の両立を支える「ノーベルの保育とは何か」を現場のスタッフもマネージャーも代表もみんなで考え言語化する、そんなプロジェクトの続きをこれから綴ります。今回、ノーベルスタッフのほかに、京都にある「探求堂~オモシロガリヤが育つ学び場~」の代表 山田洋文さんにチームに加わっていただき、ファシリテーションなど、みんなで一緒に考える場づくりを担っていただきました。
「ノーベルの保育とは何か」を言語化する
私たちは、保育スタッフの保育中のエピソードをヒアリングしながら、「保育中に大切にしていること」「意識していること」など言葉をどんどん出していきました。
・子どもと過ごす1日を全力で向き合う
・子どものペースに合わせることを心がけている
・親の罪悪感なく気持ちよく送り出したいと思っている
・単にあずけているだけでない価値、体験を提供する
・子どもの命を守っている責任感を持つ
・罪悪感を持つ親御さんが「あずけてよかった」に変わるように心がけている
・受容の保育を心がけている
・一期一会の仕事だと思っている
・親御さん帰宅時にこどもの満面の笑みで迎えてあげたい
・今日は私がママ!という気持ちで臨んでいる
・「あずけて良かった」「またあずけたい」と思ってもらえる1日にする
保育スタッフからは訪問保育をする中で、日ごろ大切にしていることがどんどん出てきます。研修で伝えていることはほんの一部で、子育てと仕事の両立をサポートするというミッションに基づいて、日々心掛けていること、先輩保育スタッフから教えてもらったこと等、たくさんのナレッジが蓄積されていることを感じます。
さらに、それぞれの保育スタッフから1日の具体的な保育エピソードを聞きながら、保育観のもととなるキーワードをみつけていきます。
保育エピソードを聞くことを積み重ねながら、一方で、施設型での保育の基礎となる保育所保育指針・保育要領や、保育に関する専門書も改めてみんなで読み合わせていきました。特に、『子どもを「人間としてみる」ということ』は、ノーベルの保育を言語化する上で重要でした。
この本は佐伯胖氏と大豆生田啓友氏の対談をもとに、「子ども観とは」「遊びとは」「学ぶとは」「育つ・育てるとは」といった保育という営みの根本にある問題について考え、さらに、「子どもを人間としてみる」ということを人間学的な視点から考察したものとなっています。
ノーベルの保育スタッフが日々実践している保育はなんとなくイメージとしてあるものの、それを具体的に言語化するためには、専門書や保育指針の言葉は必要なものでした。
実際に専門書を読むことで、プロジェクトメンバーからは
「子どもは大人と同じ、人間として素晴らしい存在なんだ、そういう意識で子どもを見ていなかったかも」
「私たちが行くことで病気が治ることはなく、見守るだけ。子どももつらいけど、子どもなりに我慢してその環境に適用しようと頑張っている。本人が一番偉いよね」
「保育中に子どもから学ぶことも多く、自分が成長したと感じている」
「自分の子育ての前に読みたかったなあ…」
「遊んでいるだけじゃなく、遊びの中で育ってるんだ」
「子どもは、今を真剣に生きようとしている一人の人間なんだ」
「じっくりと人や物事に向きあう中で、物事への向き合い方、共感する姿勢を学び取っている」
「子どもが泣いたり怒ったりするのは、「痛いから」ではなく、ずるいこと、不公平、正義に反することへの「訴え」」
「保育は横並びの関係。子どもとも、親御さんとも対等な関係をきずく上でのキーワード」
といった気づきや感想があり、実践と専門書で学んだことを重ね合わせることで、具体的なノーベルの保育のカタチが少しずつ見えてきました。子どもとの関わりの中で大切なことはなんだろう、これからの訪問保育に求められているものはなんだろう、という大切な要素が言語化され、メンバー間でお互いに認識をすり合わせることができました。
そこで、「私たちが目指すノーベルの訪問型保育」を
「大切にしたい子ども観」
「保育理念」
「保育方針」
「保育内容」
として体系的に言語化していくことを決めました。
今まで出てでてきたエピソードやキーワードをもとにノーベルに関わる全てのスタッフが、これらの保育理念等に共感でき、現場で実践する際に活かせる言葉にしていく作業が始まりました。
まずは、それぞれが思うキーワードを付箋に書き、それぞれの付箋を仲間分けし、文章をつくります。仮につくったの文章を眺めては一字一句確認していくという作業が続きます。
例えば、保育方針の1つ、
『子どもの思い・気持ちを丸ごと受け止め、関わる』という仮案が出来上がったとき、
「丸ごとってハードルが高く感じないか」
「丸ごとのそれぞれの受け止め方が変わるのでは」
「すべて子どもの思いのまま叶えてあげるという意味ではないよね」
「わからないことも含めて、寄り添い、となりにいてあげるということでは」
「丸ごとをなくしてしまったとして、ありきたりだけど「寄り添い」でもピッタリはくるんじゃない」
「「姿」に言い換えるのはどうでしょうか」
「障がいのある子でコミュニケーションがうまくいかないときでも、その日いっしょに過ごす」
「賛成。とくに違和感なく、プレッシャーも感じていない中での丸ごと」
「子ども本人もわかっていない気持ちに対して、いっしょにわかろうとする接し方」
「「思い・気持ち・姿」でもいいかな」
「文字で「姿」を見たときに、人がどう捉えるかな。センシティブにはならない?」
「言葉にならない気持ち=「姿」は良いと思う」
さまざまな意見を出し合い、最終的には『子どもの思い・気持ち・姿を丸ごと受け止め、関わる』になるといったやり取りを一つ一つ丁寧に重ねていきました。
警報レベルのRSウィルスの感染拡大での繁忙期を乗り越えながら、議論を重ねること半年。ついに、これだ!!という「子ども観」「保育理念」「保育方針」の言葉にたどり着きました。
ご紹介します。
【子ども観】
子どもは自分らしく生きる権利を持った一人の人間である。
子どもは自ら育つ力を持っており、今を真剣に生きている。
子どもは自分の思いを真摯に受け止めてくれる他者の存在が必要である。
【保育理念】
子どもの「今」を大切にする。
【保育方針】
子どもの命を守り、安心・安全に過ごせる環境を整える。
子どもの思い・気持ち・姿を丸ごと受け止め、関わる。
子どもが人や物ごととじっくり関わる経験を大切にする。
横並びのまなざしをもち、ともに楽しむ。
これは、12年間、私たちが積み重ねてきた保育から生まれた言葉。
子どもにとってノーベルと過ごす1日が素敵な思い出と経験になると自信を持つことができました。いよいよ、次はこれを元に、実際にどういった保育を実践していくのか「保育内容」の検討に進んでいきます。
そして何よりも、このプロジェクトを通じて、みんなでつくったものだという認識がメンバー全員にあり、会議が終わるごとに保育スタッフがイキイキと元気になり帰っていく様子をみて、こういう場が大切なんだと改めて感じました。
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