(2022.10.20更新)
代表長谷亜希ノート
#7 世界で唯一のパターン・ランゲージカンパニーとの出会い
『#5 私たちが目指す保育とは。12年の実践知から保育者も事務局も経営者も、みんなでつくる』の記事にて、「子ども観」「保育理念」「保育方針」が完成したことをお伝えしました。
そして、Google.orgインパクトチャレンジに採択されたことで、活動が加速していきます。
最初に取り掛かったのが、どういった保育を実践していくのか「保育内容」の検討。
もちろん、これまでも、保育に関するさまざまな研修を実施してきましたが、それはあくまで、よりより保育を実践するための育成コンテンツの一つでした。
ノーベルの訪問保育だからこその「保育内容」とはなにか、みんなが質の高い保育の実践を感じており、実際に満足度も高いけれども、それを体系的に言語化するまでに至っていませんでした。
そもそも、保育内容はどのようにつくるのがいいのか、そこから議論が始まりました。
施設型保育であれば、保育所保育指針や幼稚園教育要領にもあるように、目標としてあげられている「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」という5領域を意識しながら、子どもの発達や年齢ごとに分けて指導案を作成しています。
私たちの訪問保育は集団ではなく、自宅での1対1の保育で、環境もひとりひとり違います。
また、一期一会も多く、その時の子どもの状態や状況に合わせながら、100人いたら100とおりの保育をしています。
どうやって保育内容を作っていくべきか、『探求堂~オモシロガリヤが育つ学び場~』の代表 山田洋文さんと話していたところ、「パターン・ランゲージはどうか?」と提案がありました。
「パターン・ランゲージ?」初めて聞いたコトバでした。
パターン・ランゲージとは
すでに豊かな経験を持っている人から「コツの抽出」をし、他の人が「やってみたくなるヒント集」として提示するという、新しい「知恵の伝承&学び」の方法です。
-なぜ子どもたちがまたノーベルさんにまたきてほしいと言うのか
-なぜ親御さんからノーベルの保育は質が高いと言われるのか
なんとなくこうしたらいいのではと保育スタッフさんたちが現場で経験則でやっていることを言語化し、それを一緒に学び伝承していく。
ぜひ挑戦したい!と思った私たちは、ZOOMでクリエイティブシフトの阿部有里さんにパターン・ランゲージづくりについて根ほり葉ほり聞きます。
阿部さんの “全て必ずコトバにできます” という力強い助言。
また、パターン・ランゲージの研究者として世界的に活躍する慶応義塾大学総合政策学部・教授 井庭崇 氏がつくった世界で唯一のパターン・ランゲージカンパニーの熱いお話を聞いて、早速とりかかりたいとキックオフの日程を決めたのでした。
パターン・ランゲージ制作の全貌
(出典:株式会社クリエイティブシフト)
パターン・ランゲージは、保育スタッフへのインタビューから始まります。
「コツ」と思われる種を抽出し、それぞれの種同士で似ているものを集めて分類して、パターンの元となるものをつくります。そのパターンごとに集まったものを仮で1つのコトバにしていきます。
全体をみながら、各パターンの位置づけなどを決めていき、さらに体系化します。
そこから、具体的な文章を作っていく作業を行い、最後にそれぞれのパターンに合うイラストを制作し、冊子やカード化を目指します。
文章で書くと簡単なようにみえますが、8か月以上もかけて取り組む大きなプロジェクトです。
このプロジェクトを通してノーベルの保育を言語化し、実際にわかりやすいイラストと文章を添えて冊子やカードにすることで、これまで実践してきたノーベルの訪問保育の良さを伝えやすくなり、これを活用していくことで、保育の担い手を増やすことができます。
みなさんに、最終のアウトプットのイメージを持ってもらうためにパターン・ランゲージの事例の1つを共有します。こちらは本やカードとしてすでに出版され、多くのデイサービスや認知症カフェなどで広く活用されています(参考:「認知症とともによりよく生きるためのパターン・ランゲージ『旅のことば』の活用事例(PDF)」)。
『旅のことば 認知症とともによりよく生きるためのヒント』は、認知症とともにいきいきと暮らしている方の生活の秘訣を、全部で40個の「ことば」にまとめ、認知症の本人、家族、周りの支援者、と3つの立場に分けて書かれています。
(※上記は3つのうちの「本人」の立場にたって書いたパターン)
パターンの平均は40個前後だそうで、1つ1つのパターンが下記のように言語化されています。
これら 40 個のパターンはそれぞれ、どのような「状況」でどのような「問題」が生じやすく、それをどう「解決」すればよいのか、そしてその「結果」どうなるのかという経験則(工夫)がまとめられており、それに名前(パターン)がつけられています。
(出典:株式会社クリエイティブシフト)
例えば、「活躍の機会」というパターン・ランゲージがあります。
介護は一生懸命取り組むがゆえに、色んなことを本人の代わりにやってしまう現状があります。
↓
▼そのとき
そうすると、本人は本当に何もできなくなってしまいます。それが介護ではないですよ。
↓
▼そこで
本人がよしやってみよう!と思えるような機会をつくります
↓
▼そうすると
受け身の介護ではなく、貢献できると感じることができ前向きになる、本人家族も充実した時間を過ごすことができます。
これらのパターン・ランゲージによって、認知症とともによりよく生きるため、それぞれの立場で「ことば」(秘訣)の真意を理解し実践することができ、実践や意識の変化が連鎖し、全体がよい方向へ向かっていくようにつくられています。
同じように、今回ノーベルで作成するパターン・ランゲージによって、訪問保育においても現場で大切にしていることが言語化され、毎回年齢も環境も子どもの状態も違う多様な保育であっても、パターンを理解し現場で実践されます。
このようにして、子どもにとっても、保護者にとっても、保育者にとっても、良い方向へ向かっていくのではないかとイメージすることができたのと同時に、とてもわくわくしました。
そして、早速キックオフが開催された2021年11月下旬。保育スタッフ1人目のインタビューが始まりました。
1人目のインタビューは元保育スタッフの天野さん。
彼女はノーベルのホームページにも登場し、長い間ノーベルの訪問保育で活躍しただけでなく、過去には保育スタッフの研修や育成にも関わっているスペシャリストです。
そこで、今回の経緯や目的をお話するとぜひ!ということでインタビューを受けてくれました。
最初の質問である「若手メンバーに保育のコツを聞かれたら?」という問いに対し、
「受容する。まずは受け止めること。それが子どもの安心につながるから」
という言葉が出てきました。
私は創業当時からずっと伝え続けてきたことを、ずっと大切にしてくれているんだなと、とても嬉しくなりました。
その後も、
・最初の朝の10分で決まる。お母さんから信頼してもらえるような場づくり
・安心しておでかけできますようにという気持ち
・テキパキとした事務的な手続きの中にもあたたかいコトバを投げかける
・あくまで主体は子ども。保育者は支える側。そこに一番エネルギーを注いでる
・常に手探りで家の中で本人の好きなものを探しあてる
・お母さんを恋しがって泣きだしたら子どもに共感する、説明はしない
などなど、
1時間のインタビューで、ここには書ききれないくらいの保育の種となるものが見つかりました。
そして、このインタビューを機に、8か月にわたる長い長いパターン・ランゲージの制作の旅が始まったのでした。
- CONTENTS
- #1 2020年の社会課題 | 母親の努力と忍耐で成り立ってしまっている両立をつくりなおしたい
- #2 2030年へのロードマップ | 子どもを産んでもフツーに両立できる社会をどうつくる?
- #3 一時保育室「ノーベルさんのおうち」のOPENから、泣く泣くの撤退まで
- #4 コロナ禍の新しい挑戦の連続と大切な気づき。方向転換へ。
- #5 私たちが目指す保育とは。12年の実践知から保育者も事務局も経営者も、みんなでつくる
- #6 保育の担い手のための学びとつながる場づくりに挑戦。Google.orgインパクトチャレンジ採択決定
- #7 世界で唯一のパターン・ランゲージカンパニーとの出会い(本記事)
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