代表長谷亜希ノート2030ビジョン提言

#10 ティール組織・ビュートゾルフのあり方から学ぶ組織の仕組み

前回の記事では、さまざまな企業や団体のコミュニティづくりの事例から、オランダの非営利組織であるビュートゾルフにノーベルの目指す訪問保育の担い手コミュニティの実現の可能性を感じたことをお伝えしました。

1.4万人の訪問看護師が在籍し地域医療を提供しているビュートゾルフは、利用者満足度だけでなく、働いている人の満足度も高い組織です。また、担い手の学びの場とコミュニティがしっかり築かれています。

私たちは、子育ての担い手がイキイキとする土台をつくるためのヒントがあるのではないかと、ビュートゾルフを中心に深堀をしていくことになりました。

ここでは、私たちがビュートゾルフから実際にどんな学びを得たのか書いていきたいと思います。

ティール組織とは?

まず、ビュートゾルフを知るために、組織の進化形態、ティール組織を知る必要があります。その体系図が下記です。

組織の進化

組織というのはこの図のように進化してきました。

●RED(衝動型)…圧倒的な支配者がトップに立つ組織

●AMBER(順応型)…トップダウンの階層的構造を持つ組織

●ORANGE(達成型)…目標達成を第一に考える合理的な組織

●GREEN(多元型)…メンバーが主体的に行動できる組織

●TEAL(進化型)…個人が意思決定できるフラットな組織

日本の企業においては、オレンジ(達成型)の組織がもっとも一般的だと言われていて、組織内には階層が存在し、一定の決定権を有したリーダーが存在します。

ノーベルはオレンジ型とグリーン型が混ざっていると認識しています。

そして、ビュートゾルフは最終進化系のティール組織という形態をとってます。

ティール組織

ティール組織はひとつの生命体にたとえられます。

組織自体が社長や株主のものではなく、ひとつの生命体としてメンバーが関わり、進化する目的を実現するために関係し合っていく組織形態です。
目的の実現のために、独自のルールにもとづいた組織運営が行われています。ティール組織では、すべての意思決定に合意を得ることは必要とされず、個々に意思決定権があります。

最近、浸透してきている「自律分散型」というコトバはご存じでしょうか。

まさにティール組織は自律分散型組織のことです。

ティール組織の文献から学んだこと

ビュートゾルフを深めていくための文献として提案されたのは

フレデリック・ラル-の著書「ティール組織」とルトガープレグマンの著書「Humankind」の2冊です。

ティール組織・HumanKind
この2冊の本にはビュートゾルフが事例としてでてきます。

これらの文献から、次のようなことが分かりました。

そもそも職場とは自分らしさを失わず楽しく振舞え、有意義な目的を目指しながら同僚たちと仲間意識をはぐくくめるような場所であり、だからこそ、”内発的なモチベーションの圧倒的な向上を優先順位のトップに置き、スタッフ機能が現場をコントロールできる幻想を捨てることが必要である”、と。

私はここで、モチベーションを最上位に持ってきていることに驚きを持ち、でも、振り返ってみると、働いている人が心身ともに健康であるからこそ、自発的な原動力で、組織の描く未来を実現できるんだと、とても腑に落ちました。

さらに、現場と本部の乖離がなぜ起きるのかについての言及もありました。

本部機能を担う人々

ルールや手続きを改正したり、専門技術を積み上げたり、解決すべき問題を探したりといった付加価値を出す方法を見つけることで自分の存在意識を証明しようとする傾向があり、結果、現場から離れたところに権限と意思決定権を集中することになる。

現場を担う人々

権限を奪われたと感じ、決められたことは理論的に正しいかもしれないが、自分たちが現場で直面する具体的な状況の複雑さには対応できないと感じている。

現場が全てで、現場で起きていることをいかに知ることに心がけていたとしても、乖離は起きます。それはなぜかの答えが書かれていて、胸にグサっと刺さるというより、とても苦しくなりました。

著書では、本部機能を大きくして実現できる規模とスキルによる利益よりも、モチベーション低下による不利益のほうが大きいと言い切っています。しかし、反対にモチベーションを重視することにより、解放感と責任感が満ち溢れる組織になるということでした。

私たちは、現場スタッフをサポートするために本部機能を強化してきました。しかし、その結果、現場スタッフの自発的な判断や行動を制限してしまう組織をつくってきたことを感じたのです
ノーベルには本部にも現場にも、無力な人は一人もいません。しかし、現場スタッフが判断し動くことが可能な組織構造と行動様式を設計できたら、どうなるだろうと考えました。

自立分散型組織であるビュートゾルフも次のような特徴があります。

・2006年にオランダの地域看護師 Jos de Blok(ヨス・デ・ブロック)が設立
・現在は1.4万人の訪問看護師(立ち上げは10名)
・看護師は10~12名のチームに分かれ、50名の患者を受け持っている
・チーム内にリーダーはいない
・地域コーチの存在(コーチ一人あたり40~50チームのサポート・意思決定権なし)
・本部スタッフは約40名人事部門なし)
・自主経営が機能するための支援(教育訓練、指導、ツール)を看護チームに提供
・個人やチームの研修計画立案、ケアプラン作成、採用なども自分たちで実施
・欠勤率は低く、離職率も低い

私はリーダーという存在がなく、12名のチームが自律的に活動できる仕組みに興味を持つようになりました。

ケアに関わる人たち

メンバーたちと対話をする

2冊の本を読み、スタッフたちと対話する機会を持ちました。
そのファシリテーションをしてくれたのがHome’s vi の篠原幸子さんこと、しのさんです。

まず、最初に私たちは
①心に響いたところや感想 
②その奥にあるあなた自身の願い 
③湧き上がってきた質問や問い 
を、話し始めました。

「モチベーションの話。そりゃあそうだよな。仕事はモチベーションが最優先事項。だけど、それをコントロールする仕組みをこちら側が作ってるよな。」
「案外ノーベルできてんじゃない?一人ひとりのマインドの持ち方とか団体としての存在意義とかはティール組織に通ずるところがあったし、人を信じる・現場第一・ケア最優先という考えはある。でも乖離を生んでいるのはコントロールする仕組みを作っている。」
「マインドを持っているのは大前提だよね」
「専門性だけでなく、本当にその人のためになにができるか、が大切。そのマインドがあればできる。現場のスタッフさんはやりがいを感じてやっている。うちらの仕組みが邪魔をしている。」

といった意見も出てきた一方で、

「ビュートゾルフのやりかた、しんどいよな、と思う。誰かからこれしてあれしてと言われたくない人もいるけど言われた方がいい人もいる」
「いまマネージャー層がやっていることのしんどさを受け入れることが最初に必要なんだろうな。でも、だからこそ見えてくる景色があるとも思う」
「ノーベルの草創期は10-12人だった。お互いが補完し合っていた。やりたいことやってたと思うし。何よりもコミュニケーションを深くとっていた。でも、今は役割がでてきたし、規模もでて、均一化・束ねていこうとなったんだよね」
「本当に自律分散型と規模って両立するのだろうか。」

他にも、

「ビュートゾルフを見てると、顔の見える人同士が大切という。そのへんはどうコミュニティを作っていくか、考えないといけない。」
「昔、お詫びに野菜持って行ったスタッフさんを思い出した。親御さんも帰りにこれどうぞ、とする人もいる。でも、今はあげない・もらわないでくださいとなっていてそれもちょっとヘン。」
「ノーベルの初期に戻る。シンプルにそれに戻る。チームを作る。組織を作ろうとするのをやめる。生命体を見守る、楽しむ。それできたらめっちゃらく。面白い、現場も。人と人とのつながりをもっと感じられるんだろうな」
「なんでもルールでガチガチにするのは悲しいよね」
「自由と責任はセットだよね」
「けっこうすごい挑戦。どこまでやるのか」

といった会話があり、様々な疑問や質問が飛び交い、2日に分けて、何時間も対話が続きました。

Home’s viの代表である嘉村賢洲さんは著書「ティール組織」の解説者でもあり、団体としてティール組織の知見が日本で一番あることから、私たちも安心して質問や疑問を投げかけることができました。

さらに学びを深めたい気持ちに

私たちは文献を読み、対話をすることで、「マネジメントをする」、「リーダーがいる」という凝り固まった考えを解きほぐす必要があると感じました。

なんとなく、マインドや姿勢としてノーベルができている気がする中、構造としてできる仕組みを作っていないことがポイントなのではないかと思いました。

では、ビュートゾルフにはどういった仕組みがあるのだろう。

そこに興味を持つようになりました。

●抜けているのはオンボーディングとフレームワークなのでは?
 ビュートゾルフはどうしてるの?
●ビュートゾルフ間接部門はどういう役割で具体的に何をしているのか
●コーチの役割やどんな人材かも知りたい
●情報共有のしかたとかどうしているんだろうね。
●同じような組織の事例も知りたいな
●実際に賃金はどうしているんだろう?
●間接費8%はどうやって実現してるんだろう?
●日本とオランダの制度の比較もしてみたい

たくさんの疑問がわいてきて、さらにインプットを続けることになりました。

「どういったコミュニティづくりをすべきか」からスタートした私たちでしたが、コミュニティづくりだけでない、そもそもの仕組みにもヒントがあることを感じたのです。

私たちが目指す未来の実現に向けて欠かせない、担い手がイキイキとする土台づくり。

ビュートゾルフからたくさん学ぶことができるのではと思える時間でした。

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