(2022.12.19更新)
社会の課題2030ビジョン提言
イベントレポート|ケアをするのは誰か~これからの新しい両立、子育てのためのヒント~
先日、上野千鶴子さんをお招きして、『ケアをするのは誰か~これからの新しい両立、子育てのためのヒント~』というイベントを実施しました。
今回は、そのイベントの内容を一部抜粋してレポートします。
ケアをするのは誰か?
まず、上野千鶴子さんのこれまでの活動について簡単にご紹介します。
上野さんは、女性学・フェミニズムの研究を長年続けている第一人者です。近年は「ケア」に着目し、介護制度や介護現場の研究を今も続けられていますが、上野千鶴子さんの問いの根源は30年以上、変わっていません。
それは、「なぜ人間の生命を産み育て、その死を看取るという労働(再生産労働)が、その他のすべての労働の下位におかれるのか」(『家父長制と資本制』より)ということです。
子どもを産み育て、看取るという労働は、まさにケアそのものです。
では、そのケアをするのは誰か、誰がケアを担い、その責任を社会全体でどう配分するのか、講演の中で深掘りしていきます。
介護分野のケアの担い手の変化
子育てや保育の分野よりも先に、高齢者の分野でのケアワークの変化が始まります。それが介護保険制度の成立でした。
介護保険制度ができたことによって、これまで、家族のなかで行われていた無償労働の介護が、外部の介護専門職が行う有償労働になりました。
そして、保険という制度によって、40歳以上のすべての人がその負担を背負い、ケアの担い手を支える「介護の社会化」が実現しました。これにより、利用者の権利意識も高くなり、介護サービスの準市場が成立し拡大したのと同時に、家族介護の実態も明らかになり、高齢者虐待防止法などの制定にもつながり、介護というケアワークが見える化されました。
一方で、育児や保育については保育園の無償化などは進んだものの、子育て家庭の負担が大きく、特に女性のしんどさは依然変わらないままです。
赤ちゃんのケアは要育児度5?
上野さんは、要介護認定と比較し、「赤ちゃんは、要介護度5の高齢者と同じ。自分で排泄も食事もできず、寝たきり状態だから」と述べます。もし赤ちゃんに対して要介護度5と同じ補助が得られれば、月36万円分のサービスバウチャーが使え、しかも育児ケアマネがすべての赤ちゃんについてくれる手厚いサービスになります。
これだけのサービスが要育児度5の赤ちゃんとお母さんが使えれば、子育て・保育の社会化も実現するのかもしれません。
もちろん、それだけの負担を誰が、どのように納得して担うのか、という課題は残ります。
(要介護認定の仕組みと手順:厚労省資料より)
ケアの市場化か制度化か
ケアの外部化を実現する方法は大きく2つある、と上野さんは述べます。一つは市場化をする、というもの、もう一つは制度化する、というものです。
介護の場合はこの後者にあたり、いろいろ議論はあったものの国民の同意が得られ、制度化されました。また海外の子育ての事例をみると、北欧では公共化モデル、シンガポールや香港などは市場化モデルを取って外部化されています。
ケアの制度化・市場化、そのどちらも、その労働とケアの配分をどうするか、つまり誰がケアのコストを担うのか、という問題があります。
制度化には、国全体での合意形成を得るための大変な活動が必要で、市場化には、より弱い立場の人にケアが押し付けられがちになる、という問題がそれぞれあります。
子育ての社会化に必要なもの
代表の高との対談では、「子育ての社会化」にあたって、どのようなジャイアント・キリングの方法があるか、という問いを上野さんに投げかけました。
上野さんは、制度と権利は歩いてやってこないので、制度化するのであれば、政治に要求していくしかない、とズバリ答えます。そして、介護保険を作るには10年かかりましたが、制度化には、同じくらいの年月がかかるでしょう、と述べます。
子育ての場合、大きな社会的な危機は「少子化」です。子育てで悩み、苦しみ、中には悲惨な事件が起きることもあります。しかし、少子化はじわじわと進んでいくもので、なかなか危機感を社会全体で情勢するのは難しいといいます。
保育業界でも、もっと声を上げて政策提言も社会化運動も両輪でやっていく必要がある、と述べられました。
ケアの担い手の地位向上
ケアの担い手の地位向上という課題についても、言及されました。
ノーベルでも1時間あたり1,800円でご利用者さまに訪問病児保育を提供していますが、上野さんは、もっと時間単価3,000円くらいじゃないとやっていけないですよ、とピシャリと答えます。とはいえ、1時間3,000円の保育を、子育て家庭のみの負担で担うのはあまり現実的ではありません。
子どもを産んだのはあなただから、という自己責任論ではなく、子どもは次世代の担い手だからこそ「社会全体で子育てをする」という合意を得て、その負担をみんなで少しずつ担う必要がある、ということを改めて認識し、ノーベルとしてもどのようにケアの担い手の地位を高めていくか、宿題を与えられたと感じました。
これからの社会を変革していくために
講演では、新しい概念は新しい現実を作り出す、ということも教えていただきました。
「ヤングケアラー」・「ワンオペ育児」など、新しい概念やコトバは、これまで見えなかったものを見える化します。こうしたところにも新しい両立や子育てのヒントがありそうです。
また、社会や政治という大きなくくりだと途方もない話に思えますが、介護や子育てといったケアは日常生活のなかで個人が経験するものです。だからこそ、立場の違う人とでも、お互いの経験を共有し、対話ができるのだと思います。色んな価値観や意見を持つひとと、地道に対話を続けることの大切さも改めて感じました。
これからもノーベルでは、対話を大切にし「両立をつくりなおす」ために皆さんと一緒に学び、考える時間を設けたいと思います。
ぜひ今後も「両立をつくりなおす対話のじかん」にご参加いただけたら嬉しいです。
アーカイブ視聴について
当日、ご参加できなかった方、また今回のレポートを見てご視聴をご希望の方に2022/12/31まで期間限定でアーカイブ動画を公開いたします。
視聴申し込みはコチラ▼
https://forms.gle/2KWXmkqLs3CQgTVKA
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