代表長谷亜希ノート

【まるサポ開発の舞台裏⑩(最終回)】 日本初「資産運用型スキーム」ができるまで

「まるサポ」開発の舞台裏を書き続けてきましたが、ついに、このシリーズも今回で完結となります。

今回は、私たちが先日発表した「NPOとして日本初となる資産運用型スキーム」のリリースにいたるまで、紆余曲折の2年間の記録をこの一本にまとめてお話します。

なぜ、資産運用型スキームにこだわったのか

私は仕事柄、本当にギリギリの状態で踏ん張っている子育て家庭の支援現場に行くこともあれば、一方で富裕層の方々とご一緒し、大きなお金が動く話を聞く機会もあります。

日常で出会う人たちが生きている世界の「振れ幅」があまりに大きく、自分がどちらの立ち位置でどんな顔をして話せばいいのか分からなくなり、心が追いつかなくなるときが何度もありました。

同じ日本、同じ空の下に住んでいるのに、生まれた環境や状況によって、生きている世界がこれほどまでに違う。そして、その二つの世界は、普通に生きていれば一生交わることがありません。

「この交わらない世界の間に、仕組みを使って新しいお金の流れを作れないか」

お金ですべての課題を解決できるわけではありません。でも、お金を正しく活かし、循環させることで、社会に確実に「良い循環」を生むことができるはず。この大きな乖離を少しでもなくし、誰もが体も心も健康で幸せに暮らせる社会を作りたい。

それが、この立場にいる私にしかできない「勝手なミッション」なのだと確信したのです。

真似すればできるという甘い誤算

当時、先行事例として、神山高専モデルがありました。

大きな注目を集めていたこのモデルに関する記事を読み漁り、これならいける!と周囲に話し始めました。しかし、返ってきたのは予想以上のネガティブな意見でした。

「お金を取り扱う以上、もっと慎重になるべきだ」
「運用がうまくいかなかったらどうするのか」
「専任のメンバーはいるのか」
「そもそも、そんなに簡単にお金は集まらないよ」

創業当時の営業経験しかなかった私が、訪問型病児保育をスタートした時の感覚を思い出しました。確かに、私は資産運用のプロではないし、当時、100%出資すると約束してくれた人がいたわけでもありませんでした。

私にあったのは、世の中の矛盾、違和感だけでした。

作戦会議の始まりと、救世主の登場

行き詰まった私が相談に向かったのは、2018年頃からノーベルの組織作りを伴走してくださっている、風とつばさの水谷衣里さんでした。水谷さんは、どんな突飛な構想でも真摯に向き合い、「どうすれば実現できるか」を一緒に考えてくれる人です。

水谷さんとの作戦会議が始まりました。ここから、私の構想を具体化する作業へと進んでいきました 。

整理すべき課題は2つありました。
ひとつは『社会課題と新事業の内容を整理すること』、もうひとつは『他者に説明できるツールをつくること』です。しかし当時は、新事業『まるサポ』の名前も具体的な支援内容もまだ開発途中。説得力のある説明ができず、資金調達もなかなか進みませんでした。

ただ、スキームづくり自体は進められるということで、まずは法律の専門家を探すことになりました。

誰にお願いすればいいのか。頭の中のネットワークをフル回転させ、閃いたのが西村あさひ法律事務所の根本剛史弁護士でした。

東京の大手町、大きな窓ガラスから皇居が見渡せる会議室。水谷さんと共に根本さんを訪ねると、なんと根本さんは快くプロボノ(専門性を活かした社会貢献活動)として関わってくださることを引き受けてくれたのです。

ここから、法人形態ごとに運用が可能かどうか、条件やハードルを一つひとつ整理していく作業が始まりました。

検討の1年、そして見えてきた壁

比較検討を進める中で、私がどうしても譲れなかったこだわりがありました。それは、「お預かりしたお金は、いつか拠出してくださった方の元に戻せるようにしたい」ということでした。

しかし、一般社団法人は、元本返還が原則として解散時のみ。これでは、一部の上場企業ならまだしも、個人の方々が「社会のために自分のお金を活用してほしい」と参加するにはハードルが高すぎます。

「真似すればいい」と思っていた前提が、ガラガラと音を立てて崩れました。そこから、1年ほどかけて様々なスキームを考えては検証してきました。

下記が当時の資料です。
(※あくまで、その当時に私たちが情報収集・解釈し、作成したものです )

一般社団法人だと、運用益に課税されず低コストだが、解散時まで拠出金を返還できない…

次はこちら。

株式会社が私募社債で運用する案は利息支払いができる一方、運用益への課税が発生する。

株式会社が私募社債を募りノーベルが運用する案は、貸金業登録のコストが重すぎる。
このように様々な方法を調べては検討を繰り返してきました。

しかし、どれも『これだ』というものが見つからず、NPO自身が『お金を預かって運用する』ことは法的にどうなのかを探っていくことになりました。

私たちは、先行事例である「ノンプロフィットファイナンス」の宮本聡さんや、プラスソーシャルインベストメントの野池雅人さん、また数々の専門家へのヒアリングを重ねました。

そして、何度も徹底的に論点を整理し、NPO法人として資産運用型スキームが可能というところまでいたったのです。

法律という枠組みの中で、「どうすれば社会がもっと良くなるか」に向き合う専門家の方々。そんなプロの皆さんが想いを形にしていく姿を、目の前で見られたことは、私にとって本当に大きな経験となりました。

また、運用先もいくつか比較検討した中で、当時すでにノーベルの正味財産の一部を預けて運用をお願いしているNeueBankにもお願いすることが決まりました。

最後に。支えてくれたすべての方へ

こうして、たくさんの方の知恵と時間をお借りしながら、日本初となる資産運用型スキームが、ついにカタチになりました。

私一人の力では、絶対にここまでたどり着けませんでした。私の勝手なミッションに、真剣に並走してくださった素晴らしいプロフェッショナルの皆様に、心から感謝申し上げます。

これから生まれていく「お金の循環」を、ぜひ一緒に見守り、応援していただけたら嬉しいです。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

「まるサポ開発の舞台裏」シリーズは、今回で最終回です。長い連載でしたが、いかがでしたでしょうか。

今、私自身も現場に入っていますが、まるサポをつくって本当によかったと、心からそう思っています。

しんどいこともあるけれど、おもしろがれる毎日を。
昨日より、ちょっとうまくいく日常へ。

▼これまでのシリーズはこちらです。ぜひ合わせてお読みください。
①まるサポ開発の舞台裏①頼れなかった私が、頼れる未来をつくる
②まるサポ開発の舞台裏②「まるサポ」開発を支えた資金~CHANEL財団との出会い~
③まるサポ開発の舞台裏③ 日本初となる子育てサポート「まるサポ」はどうできた?CoBe-Techとの開発秘話
④まるサポ開発舞台裏④「まるサポ」にしか作れない強みは、こうして生まれた~生成AIは、現場をどう変えたのか~
まるサポ開発舞台裏⑤まるサポは少子化を緩和できるかも?! 「もう一人産むなんて無理」が「産んでみよう」に変わるまで。
⑥【まるサポ開発の舞台裏⑥】 双子新生児、進学、お片付け―他団体とのつながりが生んだ3つの変化
⑦【まるサポ開発の舞台裏⑦】まるサポ・クリエイティブの全貌~想いを「カタチ」にする力。~
⑧【まるサポ開発の舞台裏⑧】 「子育てこそ、みんなで」を実現する、組織づくりへ。
⑨【まるサポ開発の舞台裏⑨】もし、彼女がいなかったら「まるサポ」は生まれなかった~最強の伴走者~

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