(2023.07.05更新)
代表長谷亜希ノート2030ビジョン提言
#15 日本の子育て世帯は概ね子育てと仕事の両立に満足している?!
前回の『#14 総合的な両立サポートへ、コンソーシアムの企画と提案』の記事では新しい事業の仮説についてお話しました。
そして、企業や投資機関、そして政治家などに仮説で作った企画書のプレゼンする中、並行して進められたのが、利用者に関する定量調査です。
私たちが感じている両立の困りごと、それに対しての解決策が合っているのか。しっかりと当事者の声を定量的に調査することが目的です。
ただ、定量調査をする前に、まずは世の中の様々なデータを見たほうがいいのではないか。私たちが考えているような調査がすでにあるのではないかと調べ始めました。
既存調査をまとめると、両立満足度は高い?!
まず最初にご紹介したいのは、関西経済同友会が発表している、子育てと仕事の両立に関するアンケート調査。
■「子育てと仕事の両立に関するアンケート調査」報告書
(一般社団法人関西経済同友会, 2021年5月, n=895)
こちらのアンケートは関西経済同友会会員企業社員・経営者を対象としており、回答の内訳はわかりませんが、比較的大手企業の回答が多いのではないかと思っています。
アンケートから読み取れたこととして
・Well-being達成度は「50〜80%」と一見高水準だが、この主観的評価には「適応(あきらめ)」の可能性あり
・両立の困りごと:最大の両立課題は「子どもの発熱など緊急時のサポートの欠如」と「育児を優先することがキャリアに与える影響への不安」であること。一方、かねてからの課題であった「職場の理解の欠如」は解決されつつある。
・女性と男性には育児・家事時間には約「2倍」の差あり
・必要とされている支援:1位「転勤への配慮」、2位「テレワーク」3位「育児関連サービス利用の費用補助」(民間学童保育、家事代行サービスへの利用補助、育児サービス利用費用の税控除対象化、テレワーク中のベビーシッター利用補助制度など)
・新型コロナ感染拡大により「両立」は進んだ。その主要因は「テレワーク」
この結果をもとに、関西経済同友会では企業や国への提言を実施しています。
企業への提言:子育て支援を成長戦略として実践を
① 男性育休義務化(1ヶ月以上の実質的な取得)
② 多様性を評価する人事制度の導入
③ 育児関連費用の企業負担(テレワーク中も補助)
④ 単身赴任等への柔軟な対応
⑤ コロナ後のテレワークの定着
国への提言:意識啓発ではなく具体的な制度を
① 育児費用税額控除制度の導入など、家計の負担軽減を
② ベビーシッター補助制度の利用促進を
③ 待機児童ゼロの早期実現を
④ 男性育休の企業への取得率開示やインセンティブ導入で取得率向上を
(政府目標2025年・30%の確実な達成を)
所感として、よくある提言に収まっているなという感想があります。
職場理解の欠如解消や転勤への配慮が必要という回答は大手だからこそだと感じました。
私たちがたてている仮説「横の連携・総合的サポート」といったキーワードは出てこずでした。
さて、次の調査は厚生労働省が実施したこちら。
■令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書
(厚生労働省(委託先:株式会社 日本能率協会総合研究所)、2021年3月、n=3,000)
アンケート結果として
・出産後~小学生までの各ステージで、両立の希望は過半数が実現できていると回答
・女性の希望の働き方は時短勤務、残業をしない、という働き方が多数
・家族やパートナーに子育てを任せる、を希望する女性は少ない
・家計の経済的な役割分担は、主にパートナーに担ってほしい女性が65%、同等を希望する女性が25%
・出産後の働き方の変化について不利益に感じていることは、「仕事ぶりを評価されにくくなった」が 女性・正社員で27.3%で回答割合が高い
・家事・育児についてはほとんど女性が担っている実態は明らか
・子どもの病気の時に利用した制度は有給休暇が最も多い
このアンケートでは、家事育児は女性が担っていることが明らかである中で、希望の両立が実現できていると答えた人が過半数となっており、まさに(無意識のうちに女性が家事育児役割を担ってしまっているという)アンコンシャスバイアスがあると言えるのではないかと思いました。
最後の調査は大阪市が実施しているもの
■大阪市こども・子育て支援に関するニーズ等調査結果(平成30年度実施)
(大阪市、2018年、n=19,739)
結果は
・対象:就学前の子どもがいる家庭、回答者の90.6%が母親(就労していないが35)
・緊急時に子どもを見てもらえる:59.5%
・子育てや教育について相談できるところがある:88%、相談先が配偶者:84.1%
・病気の子どものための保育施設の利用希望 61.8%が利用したいと思わない
利用したいと思わない理由「病気の子どもを家族以外の人にみてもらうのは不安」60%、「親が対応できる」44.7%、「利用料がかかる」26.5%
・一時預かりサービス 「利用していない」79%
利用していない理由「利用する必要がない」51%、利用料がかかる18.9%
・子育てを楽しいと感じる 77.5%
・地域の人や社会に支えられていると感じる 65.6%
・両立で大変なこと
病気やけがのときに代わりに子どもを見てくれる人がいない 59.6%
子どもと接する時間が少ない 50.4%↑
残業や出張 35.2%↑
配偶者の協力が得られない 22.4%↑
・市・区に充実してほしいサービス
子育て世帯への経済的援助 57.2%
親子が集まれる屋外施設 53.6%
子育て支援の情報提供 23.7%
こちらの調査ですが、なんと有効回答数が約2万人!大阪市がこんな調査をしているとは…知りませんでした。
そして、このアンケート結果を見る限り、6割は緊急時に頼れるところがあり、約9割の人が子育てや教育に関する相談先があるという回答。
しかも、子育てを楽しいと感じる人が8割。
首をかしげました。
既存の調査からは比較的両立の満足度は高そうだと読み取れます。
私たちが日々接している人たちは超マイノリティなのか。
もっと経済的援助さえあれば、なんとかなるものなのか。私たちは病児保育事業だけでいいのかもしれないとさえ思うような結果でした。
調査の意味、問いの大切さ
私たちが立てていた仮説「企業コンソーシアム(家事代行、キャリア支援、子育て相談etc)」で問題解決をしていく方向性がありましたが、既存調査結果からは必要性を感じなかったのが正直なところです。
本当にそうなのか。
日々現場で接している親御さんたちの現状と乖離がありすぎて、しっかりと自分たちの調査で明確にしたいと思いました。
「頼る人がいない」「両立が実現できていない」という人の割合は本当に相対的に少ないのか。
「周囲に頼る人がいるか」という調査項目だけでは不十分なのではないか、例えば「急な残業のときに保育園・学童へのお迎えの代わりをお願いできる人がいるか?」と、もう少し踏み込んだ質問が必要なのではないか。必要なサポートについて質問すれば「経済的なサポート」が上位にくるのはわかるが、本当に経済的サポートだけで両立満足度は上がるのか。
問いのかけかた、調査票の作り方がとても重要であることが、既存調査結果からみえました。
そこで、私たちはマーケティングリサーチ会社に依頼し、一般層とノーベルの会員の2つに分けて調査することを決めました。そして、調査票の作り込みを始めたのでした。
次回はいよいよこの定量調査の結果をお伝えしたいと思います。
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